ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】転倒で介入可能な原因が見逃されている(Ann Emerg Med. 2020 Dec;76(6):730-738.)

転倒ガチ勢によるガチ評価というところでしょうか。転倒で介入可能な原因が見逃されているという研究。頻度が高すぎる!?など色々思うところはある結果ですが,「視力評価の視点は大事」「FRID(fall-risk-increasing drug)への介入はER側だと難しい」とも思いました。

 

OHの頻度はもっとあるんじゃないかなとか、危険な薬に抗凝固薬がはいっているけど...止めるわけにもいかないので...と色々悩みどころな内容な部分もあります。

そうはいっても普段の診療のプラクティスに影響をあたえる内容で、読んでとても勉強になりました。

Missed Opportunities to Diagnose and Intervene in Modifiable Risk Factors for Older Emergency Department Patients Presenting After a Fall
Ann Emerg Med. 2020 Dec;76(6):730-738.

目的:転倒は65歳以上の成人における死亡や合併症の主要な原因であり救急でよく見られる首座である。しかし,救急外来における転倒のリスク要因の診断と介入の機会損失の割合は不明であった。救急医は外傷の評価や除外にはなれているが修正可能な転倒の原因の特定の機会を逃しているという仮説を立てた。この研究の目的は,転倒で来院した高齢者の救急外来患者において,転倒リスク要因を特定し軽減する機会を逸した数を定量化することである。
方法:高齢者の転倒の評価についてしらべた前向きコホート研究のデータを二次解析した( Acad Emerg Med.2018;25:927-938.)。カルテを再度見直し,修正可能な転倒リスク要因を特定した。主要評価項目は転倒で救急外来を受診した高齢者の危険因子を特定する機会を逃した割合とした。
結果:
検討した400人の患者のチャートのうち、349人の患者が転倒の修正可能な危険因子を持っていたことがわかった。修正可能な危険因子が判明している患者のうち,救急外来では335人(96%)の患者で危険因子の特定を逃していた。最も多く見逃されたのは視力(147/154,96%)と高リスク薬剤の使用(245/259,95%),見逃しが少ないのは歩行異常だった(109/196,56%)。修正可能な危険因子が特定され介入まで行われた場合,医師や理学療法士が行うことが多く,時折外来やプライマリケア医へのフォローアップになっていた。
結論:高齢者が転倒して救急外来を受診した場合,医療従事者はしばしば修正可能な転倒リスク要因を特定して介入することができず,機会損失となっている。転倒関連でERを受診した患者に,転倒の原因となりリスクに対応することで転倒リスクをおさえ安全な移動を促進できる。



65歳以上でADLが保たれている人
月曜日〜金曜日のAM7時-PM11時まで転倒でERを受診した人
全ての患者は訓練を受けた専任の研究補助員によって評価を受けた
2回目の受診,重篤な人,同意がない人は除外


Geriatric Emergency Department Guidelines( Rosenberg MS, Carpenter CR, Hwang U. ACEP geriatric emergency department guidelinesに基づいて年齢,人種,配偶者の有無,過去一年間の転倒歴,転倒に関連する特定の合併症などのデーターを収集した

転倒の評価には「Stopping Elderly Accidents, Death, and Injuries tool kit」の12の質問からなる転倒予防スクリーニングツールが含まれた(Centers for Disease Control and Prevention. Stopping Elderly Accidents, Deaths & Injuries. Available at: https://www.cdc.gov/steadi/index.html)

□診察での評価項目(ACEP geriatric emergency department guidelines. J Nutr Health Aging. 2011;15:933-938.)

視力評価:0.5未満かどうか(20/40未満),最終眼科受診から1年以上経過しているか
OHのチェック(仰臥位と立位のバイタル)
Timed up and Go rest
筋力の評価:腕の外転と内転,肘の屈曲と進展,股関節の屈曲と進展,膝関節の屈曲と進展
末梢神経障害の評価(足や母趾の温痛覚)
歩行:shuffling/跛行,ataxic/失調性,steady/安定かどうか

薬の評価はBeer基準を用いた(J Am Geriatr Soc. 2015;63:2227-2246.)

□Result(抜粋)

400人中,51人にはリスクがなかった
349人のうち,335人(96%)でリスク損失があった
335人の内容はTable1に。
転倒したことがない人は1人のみで,43%は1回,56%は2回以上転倒

Table2は機会損失に関して
最も多く見逃されたのは視力障害(147/154,96%)と高リスク薬剤(245/259,95%)
起立性低血圧の見逃しは75%(15/20)
筋力低下の見逃しは37%(39/105)
歩行異常の見逃しは56%(109/196)
末梢神経障害の見逃しは89%(82/92)