ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】匙形爪、Spoon nailの鑑別は?

先日のベッドラウンドで匙形爪、いわゆるスプーンネイル、が話題になりました


NEJM掲載も不可能ではない!?匙形爪(N Engl J Med. 2018 Aug 30;379(9):e13)


 
そして、匙形爪をみてJOJOのタスクACT1を想起するのは自分だけじゃないはず、と思いつつ、鉄欠乏性貧血以外の鑑別は?ということで調べてみました
 
鉄欠乏性貧血での匙形爪は約5%と頻度がすくないことや貧血以外にも爪疾患ふくめ鑑別がかなり多彩なので、スプーンネイルをみたときは、他に爪病変がないか、爪床の赤さ(Ht代わり)をチェックするのが大事かなと思いました😊
 
 
Koilonychia: an update on pathophysiology, differential diagnosis and clinical relevance
J Eur Acad Dermatol Venereol. 2016 Nov;30(11):1985-1991.

Koilonychiaの語源は「スプーン」を意味するギリシャ語の「koilos」に由来する。

幼児期や先天性の場合を除き、第1〜3趾の爪がなりやすい
横から見るとわかりやすい
匙形爪の病因は多岐にわたるが、ほとんどの症例は後天性であり、病歴、全身状態、身体所見の確認が必要である。


鑑別疾患は皮膚疾患,全身疾患,職業...かなり多岐にわたるのでこの文献では下記のアルゴリズムを推奨しています
 
・幼少期からあるか
・他の爪の所見があるか(萎縮,隆起,紅斑,爪下病変,角化症)
・貧血のリスクがあるか
・病歴と身体診察をする
→3000m以上に滞在(高地性)
→職業性(指先に力の入る職業や外傷??)
甲状腺機能異常
→糖尿病


□皮膚科疾患

扁平苔癬の3-15%で匙形爪
乾癬の患者は80%で爪病変をきたし,匙形爪をおこすこともある
ほかに粗造爪や爪甲剥離症や爪白癬から生じることも
 

□全身性疾患

鉄欠乏性貧血のうち匙形爪がでるのは5.4%
Plummer-Vinson 症候群(鉄欠乏性貧血に伴って舌炎,口角炎,嚥下障害が生じる)の場合は37-50%に匙形爪がみられる
鉄欠乏ではなく鉄蓄積が生じるヘモクロマトーシスの最大49%でもみられる
甲状腺機能低下症でも亢進性でもみられる、後者の場合29%の報告も
糖尿病でも匙形爪の報告あり(栄養不足や微小血管病変と考えられる)
SLEやレイノーでもまれに匙形爪を発症する
VitB12,VitC,銅,セレン...いろいろな欠乏や栄養状態不良での匙形爪発症の報告がある
栄養不良の傾向がある集団(児童労働者,農村,アルコール中毒者,慢性腎臓病患者など)の研究では、匙形爪の発生率は5.5-18%.


□その他

先天性の匙形爪の報告もある
高度3000m以上の人での報告がある
様々な職業で爪に対する刺激や外傷による影響で匙形爪の報告がある


◯鑑別疾患リスト(抜粋)

・先天性/家族性(省略)
・皮膚科疾患:扁平苔癬,乾癬, 粗造爪, 晩発性皮膚ポルフィリン症,強皮症,レイノー,SLE,黒色表皮腫,円形脱毛症,クロンカイト・カナダ症候群,ダリエ
・鉄欠乏性貧血
・鎌状赤血球症
・真性多血症
・門脈圧亢進症
・冠動脈疾患
感染症:爪真菌症,梅毒.疥癬
・内分泌:糖尿病,甲状腺機能低下症,甲状腺機能亢進症,末端肥大症,ピルビン酸キナーゼ欠損症,ヘモクロマトーシス,アミロイドーシス,末期腎膳
・栄養:低栄養,VitC欠乏,VitB12欠乏,ナイアシン欠乏,銅欠乏,亜鉛欠乏,アミノ酸欠乏,アルコール依存
・外傷/職業性
・高地性
・胃切除術後
・肝腺腫
EPO産生腫瘍
手根管症候群



高齢者診療における"Diagnostic Excellence"とは?(JAMA. 2022 Mar 8;327(10):919-920)

高齢者診療における"Diagnostic Excellence"とは?(JAMA. 2022 Mar 8;327(10):919-920)

 

JAMAの Diagnostic Excellenceシリーズより抜粋です

個人的にはめちゃめちゃささる内容でした!!

 

高齢者医療における診断のエッセンスがぎゅっとつまった内容で...非常に臨床的な内容でした。詳細を知りたい人は是非原著をお読みください😊

 


Achieving Diagnostic Excellence for Older Patients
JAMA. 2022 Mar 8;327(10):919-920

かなりざっくりと抜粋しています

 


1.疾患発現の違い

高齢者だと非典型的でくる経過がしばしばみられる
肺炎でも発熱や胸痛を伴わず、認知機能の変化のみが症状として現れたり、疼痛なしの心筋梗塞は高齢者だと頻度が増加する

 

2.コミュニケーションの難しさ

 

聴覚障害認知障害は、頻度が高く見落とされがちな疾患であり、なおかつ、正確な病歴を収集する上での課題にもなる。

難聴は年齢とともに増加し、75歳以上の高齢者の半数以上が罹患しているにもかかわらず、スクリーニング検査で病歴や身体検査に含まれることはほとんどない。

 

聴覚に問題がある高齢者のうち補聴器を使用しているのは14-30%程度。この頻度の低さには補聴器のコストやスティグマが関係している。難聴はうつ,認知,転倒のリスクとしても高齢者に関連している。


認知機能障害は初期であればかんたんに見過ごされる。系統的なスクリーニングや適切な家族の関与がないと、病歴聴取で大きな過ちを起こすことがある。


介護者や同伴者は、重要な情報を持っていることが多い。しかし、主な情報源は患者であり、診断のための問診と評価の中心となるべきである。患者の自律性の尊重と、他者から最大限の情報を引き出すことの必要性のバランスをとることが熟練した臨床医である。

 

3.診断プロセスを混乱させる複雑さ

 

高齢者医療の診断の難しさの要因は老年医学の根底にある複雑さである。高齢者は複数の慢性疾患を抱え、複数の薬剤を服用し、複数の臨床医(プライマリ・ケア医と専門医)がケアを行うが、これらの臨床医は常に互いにコミュニケーションをとっているとは限らない。


高齢者は薬の副作用や薬物相互作用の影響を受けやすい。薬剤に関する情報は診断プロセスにおいて必須である。また、薬の数を安全に減らすことは高齢者医療の重要な原則でもある。


節約の法則、いわゆる、オッカムの剃刀は高齢者医療では有用ではないかもしれない。高齢者が倦怠感やめまいなど漠然とした症状を訴えている時薬剤の相互作用なども考慮するべきある。発熱がなく痛みのない尿路感染症、難聴によるうつ様症状の悪化...機能改善とQOLの向上を目指すためには、これらすべての要因を評価し、対処しなければならない。


加えて臨床医は過剰検査の危険性にも留意する必要がある。詳細な病歴聴取と診察による多くの検査が回避することができる。


4. Ageism/年齢差別のリスク


「高齢」に対する固定観念や否定的な態度は、診断の探求を早期に終了させる結果になりかねない。Ageismとは、「人種差別や性差別が肌の色や性別で達成されるのと同様に、高齢であることを理由とした固定観念や差別のプロセス」と定義され、社会にも臨床ケアにもいまだに広く浸透している。

高齢患者を治療する際の暗黙的な徒労感は、診断の卓越性を損なっている


□What Is Diagnostic Excellence for Older Adults?


高齢者における卓越した診断には省略エラーのリスク(診断の見落とし)と共に遂行エラー(過剰検査,過剰治療)も認識する必要がある。ケアの目標達成のために個別化アプローチは高齢者において特に重要である。複数の慢性疾患を持つ高齢者において、患者の身体機能や認知機能を考慮しながら、個人の目標を理解することは診断医の重要な課題である。


特に高齢の患者において、介入の潜在的なリスクや医療環境で過ごす時間が長いことが望ましくないことや、QOLのために診断の不確実性を許容する患者もいる。このような場合、臨床医は患者の価値観を尊重するようなコミュニケーション能力を必要とする。不確実性を許容し、残りのQoLを最適化するために症状を注意深く治療する姿勢が必要である。患者の年齢や状況の変化により、ケアの目標がどのように変化するかを理解することは、高齢者における診断の卓越の中心をなすものである。

□Key Points for Diagnostic Excellence(一部改変)

1. 加齢に伴い医学的な複雑さが増し、診断の難易度が増す。
2. 過剰診断と過小診断はよくあることであり、同程度に危険。
3. 様々な基礎疾患の相互作用により、曖昧な徴候が生じることがある。
4. Ageism的な固定観念は、Diagnostic Excellenceを妨げることがある。
5. 患者や家族は重要な情報提供者である。

発熱の指示簿に関する単施設後ろ向き観察研究 Int J Gen Medにアクセプト

Relationship between the use of preprinted physician orders for hospital-acquired fever and time to blood culture collection: a single-center retrospective cross-sectional study

 

 

発熱時の指示簿と血液培養採取までの時間をしらべた後ろ向き観察研究、Int J Gen Medにアクセプトいただきました😊

 

入院時の発熱の指示簿は「発熱時 Dr.call(+コールをもらった医師は診察しに行く)」という感じで初期研修の時に習ったんですが、どうやらそうでもないところもある。院内だとデバイス留置の人多いし、発熱時クーリングや解熱剤だと血液培養や菌血症の診断おくれるんじゃない?、というのをまず調べるために菌血症の症例を後ろ向きに調べてみました

 

色々Limitationがある研究なのですが、指示簿の違いで発熱から血液培養採取まで1時間以内の割合や、発熱から血液培養採取までの時間に指示簿の内容で5時間くらい差がでるという結果でした

 

そりゃそうだ、という結果ではありますが、院内の発熱や発熱時の指示簿って日常診療のキーだとおもうので少しづつ調べていきたいと思います

 

入院患者の発熱に関して興味あるかたはこちらも是非ご参照ください😊

 

https://generalistcwtg.hatenablog.com/entry/2021/10/28/172524

 

 

【JC】院内心肺停止の予後予測 GO-FARスコア

専攻医の先生の振り返りの時にでてきたGO-FARスコア(JAMA Internal Medicine 2013で発表された院内心肺停止の神経学的な予後が予測できるスコア)
最近の状況は?と気になったのが出発点で調べてみました😊


Development and Validation of the Good Outcome Following Attempted Resuscitation (GO-FAR) Score to Predict Neurologically Intact Survival After In-Hospital Cardiopulmonary Resuscitation

(JAMA Intern Med.2013;173(20):1872-8)

366の病院,51240人の初回院内心停止を後ろ向きに収集
main outcomeは神経学的に良好ないし軽い障害にとどまる状態での生存 CPC 1と定義

神経学的転帰良好=グラスゴーピッツバーグ脳機能カテゴリー (Pittsburgh cerebral-performance categories:CPC)


★GO-FARスコアリング

・入院時CPCスコアが1:-15
・入院中にショックないし意識障害がでた外傷:+10
・入院中に発生した脳卒中:+8
・癌の転移ないし血液悪性腫瘍:+7
・敗血症:+7
・心疾患以外の入院:+7
・入院24時間以内の肝不全:+6
介護施設からの入院:+6
・入院4h以内の低血圧ないし低潅流:+5
・腎不全ないし透析:+4
・入院4h以内の呼吸不全ないし慢性呼吸不全:+4
・肺炎:+1
・70-74歳:+2
・75-79歳:+5
・80-84歳:+6
・85歳以上:+11

★GO-FARスコアと良好な予後の確率

-6~-15(Above)    :27.5%
-5~13(Average)  :9.4%
14~23(Low)        :1.7%
24~(Very low)     :0.9%
 
ということで14点以上の人が院内心肺停止に陥ってしまうと神経学的に予後が良好(CPCが1)な確率は2%未満とかなり厳しいことが予測され蘇生コードの意思決定に使えるのでは?という論文でした
 

Predicting neurologically intact survival after in-hospital cardiac arrest-external validation of the Good Outcome Following Attempted Resuscitation score.
Resuscitation. 2018 Jul;128:63-69.
PMID: 29723607
 
スウェーデンの院内心肺停止のレジストリデーターの解析
717人中22%がCPC 1
改善解析に回ったのは523例
AUROC 0.82だがOriginal Cohortとの比較をすると
 
Above 97/166
Average 40/258
Low 3/61
Very Low 1/38
 
と、当初の報告よりCPC 1の割合が多いので過小評価になるかも?という結果
 
Predicting Outcomes of In-Hospital Cardiac Arrest: Retrospective US Validation of the Good Outcome Following Attempted Resuscitation Score
J Gen Intern Med. 2019 Nov;34(11):2530-2535.
 
アメリカの後ろ向き研究
403人、生存33%、CPC1での退院は17.4%
 
Above 15/44
Average 47/209
Low 5/90
Very Low 3/60
 
AUCは0.68
サブ解析で週末効果と入院48h以内に発生したかどうかを解析したが特に影響はなかった。
 

Prospective validation of the Good Outcome Following Attempted Resuscitation (GO-FAR) score for in-hospital cardiac arrest prognosis.
Resuscitation. 2019 Jul;140:2-8.
 
GO-FARスコアの前向き研究
386病院の62,131人を対象
C Statisticは0.75で原著論文と同等だった
100床超/以下、教育病院/非教育病院、所属(民間,非営利,軍や政府)でも同様の結果
 
 
Validation of the Good Outcome Following Attempted Resuscitation (GO-FAR) score in an East Asian population.Resuscitation. 2020 May;150:36-40

(待望の)アジアでの研究
韓国の単施設(2700床!!)の後ろ向き研究
1011人の解析、生存率25.4%、CPC 1 16.0%
AUROC 0.81
 
 
ということでGO-FARを検証した研究は%に差はあることはあっても概ね指標の1つとしも良さそうな結果です。
 
そしてそんな中 GO-FAR2というのが出てきました。
 
 
Predicting the probability of survival with mild or moderate neurological dysfunction after in-hospital cardiopulmonary arrest: The GO-FAR 2 score.
Resuscitation. 2020 Jan 1;146:162-169.

もともとは神経学的予後を「CPC 1」に設定してたのですが、「CPC 2(中等度の神経機能障害)」と転機の許容範囲を広げて設定しています
 
そしてVery low(≦5%),below average(≦10%),average(11%~30%),above average(>30%)に分類するモデルを作成した。AUROCは0.69-0.70.

■GO-FAR2 (9つの変数)
 
年齢:75-79歳+2,80-84歳+2,85歳以上+3
CPC2以下の入院-4
非心疾患での入院+1
心臓血管外科での入院-2
低血圧や低韓流+2
呼吸不全+1
敗血症+1
転移性ないし血液悪性腫瘍+2
透析+2
肝不全+2
 
■予後予測
5点以上で0-5%
2-4点で6-10%
-3から1点で11-30%
-3点以下で30%以上
 
ということで...
 
✓GO-FARスコアは院内心肺停止症例におけるCPC 1(神経学的に良好ないし軽い障害)の予測に有用で多施設前向き研究もアジアでの後ろ向き研究でも検証がされている。
 
✓GO-FAR2スコアという9つの変数で院内心肺停止症例におけるCPC 2以下(神経学的に中等度の障害)に予測につかえるスコアもでてきた
 
という状況のようです
 
予測スコアが絶対、ではないですが、意思決定時に客観的な予測データーがあるというのは判断しやすい材料の1つではないかと個人的には思うのでこういった研究の運用や検証がより進むと良いなと思っています😊

【JC】剣状突起痛 Xiphodynia とは?

剣状突起痛/Xiphodynia
 
頻度はまれ(?)ながら心窩部の筋骨格系の疼痛の鑑別に必ず入る疾患の剣状突起痛(Xiphodynia)
少し前の外来で紹介状をみて「剣状突起痛に違いない!!」とおもって意気込んだことがありました
 
カーネット陽性、感覚低下あり、ピンチサイン陽性、Hooking maneuver陰性、剣状突起の圧痛なし
 
ということで結局最終診断はTh8くらいの高さの左上腹部のACNESだったわけですが...良い機会なので学びなおしてみました
 
 
Xiphodynia: a rare cause of epigastric pain
Intern Emerg Med. 2018 Jan;13(1):127-128
63歳男性
受診6ヶ月前に自動車事故
受診3ヶ月前発症の経過の腹痛
CTで剣状突起の角度が鋭角であることが確認され剣状突起痛の診断
手術で切除された
 
外傷や重いものを持ち上げたり,手術による侵襲などが原因でおこる剣状突起の筋性癒着
確定診断はCT画像で可能
 
Xiphodynia
Am J Med. 2021 Mar;134(3):e215-e216.
石塚先生の症例報告
 
51歳男性
2dの経過の心窩部痛
疼痛部位に1cm程度の腫瘤と圧痛あり
自発痛なし,姿勢や動作により誘発される
カーネット徴候は陽性
CTで剣状突起の角度は133°で剣状突起痛の診断となり,病態説明後症状は改善した
 
Discussionより抜粋
痛みは胸部や背部に放散することもある
原因は外傷や軟骨炎の報告があるが特発性のこともある
剣状突起が皮下に隆起していれば剣状突起痛の可能性がある
剣状突起痛の症例の角度がそれぞれ105°,135°,120°であったが症状がない人の平均は172±15°だった
 
剣状突起の圧痛があれば診断可能であり診断は必須ではない
病態の説明のみで改善することも多く鎮痛薬やトリガーによる鎮痛も行われる
難治性の場合は切除術をおこなうことも
 
Xiphodynia
Intern Med. 2022; 61(1): 131.
70歳女性
4年前 肋骨骨折
3年前 時々起こる心窩部痛を自覚
前傾姿勢で増悪
身体所見では上腹部の圧痛と腫瘤のような突出物あり
CTで剣状突起が128°の角度で前方に突出していた
NSAIDsで改善した
 
Episodic abdominal and chest pain in a young adult. 
JAMA 307(16):1746–1747
22歳男性
1年前からの再発性の上腹部痛・胸痛があり7回入院している
外傷歴なし
NSAIDs,モルヒネ,抗不安薬で治療されている
ほぼベッド上でうつ伏せで眠れず咽頭部に痛みがある
剣状突起に圧痛がありステロイドやNSAIDsを注射しているが疼痛は持続している
 
剣状突起痛の診断の鍵の剣状突起部の圧痛の再現
局所薬投与への反応が乏しいため剣状突起術の切除が推奨される
CTでは異所性骨化/軟骨化が認められた
手術で2cmの軟骨検体が切除された
手術翌日に症状がおさまり10ヶ月後も症状の再発はなかった
 
Discussionより
ギリシャ語で剣を意味するxiphosが由来
稀な疾患と思われていたが一般病棟の2%にいて従来考えられているより多いという報告もある
 
放散する場所は色々(頸部,背部,腕,肩,胸壁...etc)
嘔吐や下痢を伴うこともある
診断は臨床診断で剣状突起部の適度な圧迫に寄る圧痛
皮下の隆起が明らかなこともある
 
Xiphodynia and prominence of the xyphoid process. Value of xiphosternal angle measurement: three case reports
Joint Bone Spine. 2010 Oct;77(5):474-6
 
剣状突起痛の症例の角度がそれぞれ105°,135°,120°であった
症状がない人の平均は172±15°
 
 
Xiphodynia Mimicking Acute Coronary Syndrome. 
Intern Med. 2015; 54: 1563-6.
 
脳卒中と糖尿病と胃癌に対する部分切除の既往のある79歳男性
労作時の心窩部痛で入院
CAGで90%狭窄がありPCIを行った
しかし痛みが改善しなかった
造影CTで剣状突起が5cmの大きさに伸びているのがわかった
剣状突起部を押すと圧痛が得られた
アセトアミノフェン,トラマドール,モルヒネ,SNRIは効果がなかった
ステロイドと局所麻酔薬の局所投与も効果がなかった
剣状突起切除術が行われたあと疼痛は直ちに消失し7ヶ月再発はなかった
 
 
 
ということで
 
私見としては...
 
■剣状突起痛 Xiphodynia 
 
・頻度は不明だが診断不明の胸痛・上腹部痛(剣状突起部)の痛みの鑑別に剣状突起痛は考えよう
・放散痛はいろいろな場所に起きうる
・筋骨格系の疼痛なので圧痛があり、体動やカーネット徴候で増悪する
・診察で剣状突起が腫瘤様にふれることもある
・画像は必須ではないがCTで剣状突起の角度をみると診断の補助になるかもしれない
・病態の説明で改善することもあれば局所薬の投与で改善がなければ切除が必要なことも
 
ということでした😊

【JC】シロスタゾールによるめまい

シロスタゾールでめまいが生じるか、生じるならどれくらいの頻度か、を調べてでてきた文献

 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34192807/

PADによる間欠性跛行を対象としたシロスタゾールのメタアナ
(脊柱菅狭窄症に対するシロスタゾールではないです)

 

跛行出現距離 26.49m (low-certainty evidence).
QoLの改善は得られる可能性がある(very-low certainty evidence)
最大歩行距離 39.57m (low-certainty evidence).

なのでPADによる間欠性跛行には良いのではないかという報告

 

その研究で最もよく報告された有害事象は、頭痛、下痢、便の異常、めまい、痛み、動悸。

 

50mg 1日2回,100mg 1日2回 両方込みで抜粋すると

 

頭痛 プラセボ 119/1128 シロスタゾール 380/1456 OR 2.83(2.26-3.55)
下痢 プラセボ 62/1101 シロスタゾール 190/1402 OR 2.73(2.02-3.70)
めまい プラセボ 20/471 シロスタゾール 63/649 OR 2.42(1.43-4.08)
疼痛 プラセボ 92/724 シロスタゾール 81/716 OR 0.96(0.71-1.30)
動悸 プラセボ 12/758 シロスタゾール 94/923 OR 7.16(3.95-12.98)

 

報告が少なく血行再建、切断または心血管イベントについての結論は不明
(ペントキシフィリンに関してはここでは省略しています)

 

ということで...

 

シロスタゾールの副作用として頭痛や動悸は有名ですが,シロスタゾール投与群において頻度は少ないようですが,有意に下痢やめまいもきたしうるというのは抑えて良いかなと思いました😊

【備忘録メモ】ACE阻害 vs 誤嚥

チームで話題になったついでにACE阻害 vs 誤嚥予防
ちょっと確認してみました

(そもそもACE阻害>ARBという話もありますがここでは割愛させていただきます)

 

BMJ 2012年のシステマティックレビュー&メタアナ(BMJ. 2012 Jul 11;345:e4260.)
②NEJM 2019年の誤嚥性肺炎のレビュー(N Engl J Med. 2019 Feb 14;380(7):651-663.)
③アジア人での脳卒中後のACE阻害の解析(Adv Ther. 2012 Oct;29(10):900-12)
④JGFM 2022年のシステマティックレビュー&メタアナ(https://doi.org/10.1002/jgf2.532)

 

をざっとみてきました

 

BMJ レビュー

Risk of pneumonia associated with use of angiotensin converting enzyme inhibitors and angiotensin receptor blockers: systematic review and meta-analysis
BMJ. 2012 Jul 11;345:e4260.

ACE阻害は有意に肺炎のリスクを下げる
vs コントロール OR 0.66
vs ARB OR 0.69

脳卒中患者では
vs コントロール OR 0.46
vs ARB OR 0.42

アジア人で特に効果が出やすい(OR 0.43 vs 非アジア OR 0.82 95%CI 0.67-1.00)
なので脳卒中の既往のあるアジア人では特に効果が出やすいのでは、という結果


②Aspiration Pneumonia
N Engl J Med. 2019 Feb 14;380(7):651-663.

 

□PreventionのところでACE阻害のところ抜粋

脳卒中患者、特にアジア人患者では、ACE阻害剤を使用すると、おそらく咳を促進し嚥下反射を改善するサブスタンスPレベルを上昇させることによって、誤嚥性肺炎のリスクを低減することができる。脳卒中患者8,693例のメタ解析では、ACE阻害剤投与群は非投与群に比べ誤嚥のリスクを減少させた(OR 0.6)

 

③アジア人での脳卒中後のACE阻害の解析(Adv Ther. 2012 Oct;29(10):900-12)

脳卒中後8,693例を対象に,ACEI阻害他の降圧剤またはプラセボと比較

すべての試験において、ACE阻害、特にimidaprilは対照群と比較して0.32から0.81の相対リスク減少をもたらした


アジア人では相対リスクは 0.42
日本人では相対リスクは0.38

ACE阻害は他の降圧薬やプラセボと比較して、特にアジア人において脳卒中後の患者の肺炎リスクを減少させる

 

④Effectiveness of angiotensin converting enzyme inhibitors in preventing pneumonia: A systematic review and meta-analysis
https://doi.org/10.1002/jgf2.532
2022年 JGFMのシステマティックレビュー&メタアナリシス

2012年のBMJの後、Negative studyがでてきたので再度やってみたという内容
結果としては

ACE-Iの肺炎リスク軽減効果

RCT OR 0.75(0.62-0.90) Low evidence
観察研究 OR 0.85(0.78-92) Very low evidence

ということで肺炎予防の効果は小さくエビデンスの質も低いのでルーチンの使用は推奨できない、という記載です。しかしこれは誤嚥を起こした人とかではなく心不全やCKDなどいろいろな人を対象にした研究をひっくるめた内容でもあるのかなと思いました。

 

Discussionでは
✓今回の研究では効果が高いとされている高齢者やアジア人患者の割合が少なかった
✓患者がすでに他の降圧剤を服用している場合、あるいは初めて降圧剤を処方された場合、ACE-Iに切り替える、あるいは小さな肺炎予防効果を期待しながらACE-Iによる治療を補助的に開始することは可能

という記載もあります。

 

私見

 

誤嚥のリスクがない人に対して肺炎予防でルーチンでいれるのは推奨されない、というのは納得

 

逆に誤嚥ハイリスク患者だったりすでに誤嚥性肺炎をおこした人ですでにACE阻害ではない降圧剤が投与されている人であればACE阻害に変更するのは臨床的にはある程度妥当ではと思いました。

 

誤嚥ハイリスク患者だったりすでに誤嚥性肺炎をおこした人で降圧剤の投与歴がない人は...まぁ少量で入れても良い気もします。。(特にアジア人や脳卒中の既往のある人ではなおさら...ですかね)